【謎楽器】欠点だらけの楽器「メロトロン」
メロトロンとは?
メロトロン・サウンドは、1960~70年代のロックを語る上で、とても重要だと言われています。デジタル楽器では得られないノスタルジックで浮遊感漂う味わい深いサウンドが特徴。ビートルズやデビッド・ボウイ、レディオヘッドらも使用したといわれてます。
構造は、鍵盤を押すとテープが再生されるというものでした。サンプラー・シンセサイザーを当時のアナログ技術で無理やり作ってしまったといったところでしょうか。鍵盤を押したら、人の声やバイオリンの音がするということが当時としては画期的でした。
メロトロンの歴史
1946年、ハリー・チェンバリンが「テープデッキをオルガンに組み込めないだろうか」と考えたことが始まりと言われています。このアイディアを形にしようと、自宅のガレージでテープ再生型のリズムマシンを制作しました。この製品を家庭用オルガン市場に向けて販売したところ、大成功。カリフォルニアに工場を設立し、キーボードを製作するようになります。メロトロンにも採用した独自のシステム「マルチステ-ション・テープ・チェンジ・システム」を導入したと言われています。
その後、何度かモデル・チェンジを重ね、60年にオンタリオに開いた新しいショップで製造と販売を行ないました。61年にセールスマンとして雇ったビル・フランセンは売上をあげるも、生産が追いつかず、音源テープの破損や不安定な作動トラブルが続出してしまいました。
その後、ビル・フランセンは1962年にイギリスへ渡り「ALDRIDGE ELECTRONICS社」のレズリー・ブラッドリーに生産の相談しました。レズリーは兄弟のフランクとノーマンに相談し、修理やメンテナンス、生産を請け負うことになります。バーミンガムに製造工場を確保、試作品を完成させ、63年、ブラッドレー兄弟は新型楽器用の音源の録音を開始。そして、ついにメロトロンなる名前の楽器「Mellotron MK I」が誕生したそうです。
でも、製作はハリーには内緒で進められたことだとか….
メロトロンの構造
35鍵しか鍵盤がなく、それぞれ3つの音色を録音したテープと再生ヘッドが付いています。鍵盤を押すと、重りが下がり、最長で8秒間だけテープに録音された音が再生される仕組みです。
そのテープに記録されたサウンドでもっとも有名なのはFlute、3 Violin、男女混声8Choirとよばれる人の声の3種類でした。
音色は録音されたものをそのまま使用しているので、テープの再生と合わせて暖かいサウンドを奏でます。テープレコーダーのテープに本物のフルートの音を、ドレミファソラシドって1音ずつ録音して、出したい音のスイッチを押すとその音のテープにヘッドが触れて発音する仕組みです。
アナログすぎる楽器なので、弾き始めの一発はたいてい安定しないそうで、モーターの御機嫌と対話しながら弾くのがコツなようです。
欠点と魅力
メロトロンの発明は、商業的な音楽の録音課程を塗り替えてしまうかも知れない一種の革命的な出来事でした。
イギリスのミュージシャン・ユニオンは1967年、「メロトロンを使用することでヴァイオリンなどの演奏者を必要としなくなり、仕事を奪うものである」「音作りに協力したミュージシャンは、その音が他人に使われても全く収入にならない」という声明を出しました。後者の訴えはBBCでも問題になり、メロトロニクス社は協力したミュージシャンに補償金を支払っています。
結局テープに録音したり発音方式が違ったりなどの理由で、録音されている楽器とは似ても似つかない独特の音色になってしまっているため、実際、アメリカではメロトロンの出現によってアーティストの仕事が極端に減ってしまうことはなかったそうですが、機構上「8秒以上音を伸ばすことができない」「ピッチがズレる」「複数の鍵盤を同時に押さえると音程が下がる」「テープが傷みやすい」「重いしすぐ壊れる」などといった楽器としては致命的な欠点だらけだったそうです。
メロトロンが使われた曲を聞いてみよう
ロック界でメロトロンの音が最初に録音されたのは、1965年のグレアム・ボンドのシングル「Lease On Love/ My Heart’s In Little Places」であるとさ言われています。
メロトロンによるFlute(フルート)の音を聞いてみよう
『Strawberry Fields Forever』のイントロには、メロトロンのフルートの音が使用されています。単音楽器であるフルートの音を和音で奏でるというところが革新的ですね。この曲が持つ夢と現実の狭間のような世界観にメロトロンは本当に大きく貢献しました。他にもビートルズは、「アイ・アム・ザ・ウォルラス」「フライング」「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」でメロトロンを使用しています。
ちなみにビートルズにメロトロンの使用を勧めたのは、イングランド出身のロック・バンド、ムーディー・ブルースのマイク・ピンダーだったそうです。
ローリング・ストーンズ「2000光年のかなたに」、デヴィッド・ボウイ「スペイス・オディティ」、ムーディー・ブルース「サテンの夜」などでメロトロンが使用されています。
イントロのスパニッシュ・ギターはメロトロンに内蔵されたイントロ・パートのフレーズをそのまま使用したものだそうです。
メロトロンによるViolins(バイオリン)の音を聞いてみよう
プログレッシブ・ロックの幕開けともなったKing Crimsonの『In The Court Of Crimson King』を聞いてみましょう。メロトロンによるバイオリンの音色は、とても存在感があります。
The Rolling Stones 『2000 Light Years From Home』 では、浮遊感溢れるメロトロンによるバイオリンの音色を聞くことができます。
メロトロンによる8Choir(ミックス・サウンド)を聞いてみよう!
Genesis 『Watcher Of The Skies』 は前半の1/3をメロトロンによる演奏に当ています。
メロトロンは現在も使われているの?
現在では、メロトロンの音を収めたサンプリングCDや、メロトロンをモチーフにした音を収録した音源モジュールも発売されています。2018年には、メロトロンサウンドを再現したアプリ「Fingerlab Mellowsound」もリリースされています。Native Instruments社よりリリースされているKontaktには純正音源としてメロトロンの音が入っています。
現在、メロトロンは ブラッドリー兄弟の所有する「メロトロン・アーカイヴス社」と、レズリーの息子ジョンがマーティン・スミスとともに立上げた「ストリートリー・エレクトロニクス社」の2社で製造されています。
メロトロンのテープに録音された音は、ノイズが含まれたり音程が不安定ではありましたが、それが個性として評価されています。近年ではメロトロンの持つ幻想的なサウンドを再評価する声も高く、その唯一無二な音はデジタルサンプラーにも引き継がれています。